riddle
「ねえ、アリス。なぞなぞをしようぜ。」 華やかな遊園地の片隅、オーナーの屋敷の一室とは思えないほど改装を施されたボリスの部屋でアリスは主の声に顔を上げた。 そしてなんだかとても良いことを思いついたように目を輝かせている恋人の顔に微妙に顔をしかめる。 猫属性のボリスがこういう顔をしている時はあんまりアリスにとっては嬉しくない状況にされることが多い経験からの自然な反応だった。 「なぞなぞ?」 それは本当になぞなぞなの?という問いを言外に含ませた言葉にボリスはきゅっと口角を上げる。 「そ。なぞなぞ。してくれるよね?」 選択権を残しているようで、残していない言い方にアリスはため息をついて本を閉じた。 面白い所にさしかかっているけれど、こうなったボリスは絶対に譲らないのを知っているからだ。 「いいわよ。それにしても好きね。」 「ふふ、今回はひと味違うぜ。もしあんたが答えられたら、何でも1つ言うことを聞いてやるよ。」 「・・・・それってやっぱり答えられなかったら私が何でも1つ言うことを聞くのよね?」 何でも1つ、という部分に不穏なものを感じてアリスが問うとボリスは何も答えずただ笑った。 もちろん、それがイコール肯定の意味だとわかるような笑み。 たぶん、無駄だろうとわかりつつアリスは念のため反撃を試みる。 「・・・・・・・・・・・やりたくない、けど。」 「ふーん?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった、やる。」 一瞬獲物を狙うように細められた目の迫力に、アリスは大人しく頷いた。 「だよね。やっぱあんたって可愛い。」 とろけるような甘い声で言われてアリスは複雑な顔をしてしまった。 (なんでこの人ってこういうことサラサラ言えるんだか。) 全部が全部甘い言葉で構成されているわけではない。 けれど、甘い言葉を挟み込むタイミングが絶妙なのだ。 しかもそれがお愛想や過剰装飾ではなくて、ボリスは本当にアリスが可愛いと思っているのが伝わってくる。 (嬉しい・・・けど、恥ずかしい。) 少し捻くれていると自覚のあるアリスとしては、嬉しいが微妙な恥ずかしさにいつも妙な顔をしてしまう。 今だってそうだったのだが、ボリスは表情を変えることなく愛おしそうにアリスを見つめているだけだ。 「えーっと・・・・なぞなぞ。するんでしょ?」 ボリスの気をそらそうとさっきの話題を繰り返したアリスに、ボリスはくすりと笑って頷いた。 「ああ、するよ。」 言うなり、ボリスはするりとアリスとの距離を詰めた。 「!」 同じソファーに隣り合って座っていたのだから距離を詰められるのも一瞬で、逃げ損なったアリスをボリスが少し下の位置から覗き込む。 唐突に縮まった距離に、一気にアリスの心臓が騒ぎ出した。 「な、何?」 「ねえ、アリス。」 戸惑うアリスの名をボリスは甘い甘い声で呼ぶ。 ただの名前なのに、好きだと言われているのではないかと錯覚するほど甘い声で。 (っ!) いやがおうにも赤くなる頬を自覚してアリスは反射的に唇を噛んでしまった。 それを見てボリスはすっと腰を上げるとアリスの唇をぺろっと舐める。 「!ボリスっ!」 止まるかと思いほど跳ね上がった心臓を押さえてアリスは怒った声を出した。 が、もちろん、そんなことはなんの効果もないわけで。 ボリスは楽しそうにくすくすと笑いを零しながらアリスの耳に唇を寄せる。 「じゃあ、なぞなぞだ。」 耳に触れる吐息にアリスが少し肩を動かしたのに気がついているはずなのに、意地悪くそのままでボリスは楽しそうに紡いだ。 「俺が今一番、アリスに言ってもらいたい言葉ってなんだ?」 「っ!」 思わずアリスが息を飲む。 そして耳元からまた覗き込むような位置に戻ったボリスの金色の目を軽く睨んだ。 「それ、なぞなぞじゃないじゃない。」 「なぞなぞだよ?」 「だからそれって・・・・」 「ヒントほしい?俺がいつもアリスに言ってる言葉だぜ。簡単だろ?」 悪びれもせずにそう言ったボリスの瞳に悪戯っぽい光とは違うものを見つけてしまって、アリスはため息を一つついた。 「・・・・確かにあんまり言わないけど、それは恥ずかしいからって言ってあるのに。」 「なんのこと?俺はなぞなぞをしてるんだぜ?」 なぞなぞという名のお強請りを。 罰ゲームとご褒美までつけて強請ってくるボリスにアリスは浮かんでくる笑みを堪えきれなかった。 「なに、おかしいの?」 途端に責めるような声が飛んできてアリスは緩く頭をふる。 「違うわ。言葉を強請るなんて女だけしかしないのかと思っていたから。」 「・・・・それで、答えは?」 少しだけの間を肯定と捉えて、アリスは深呼吸を1つして、彼の望む言葉を言うべく口を開いた。 「大好きよ、ボリス。」 ―― なぞなぞの罰ゲームもご褒美も有耶無耶になったのは言うまでもない。 〜 END 〜 |